本記事について
- ブロックチェーンゲーム、GasHero(ガスヒーロー) についてのリサーチ記事です。
- 2024年1月時点での情報を元にしています。最新情報ではない可能性があるのでご注意ください。
皆さんはGasHero、やってますか?
私は仕事中と就寝中以外は、だいたいやってます。
いやそれは過言かも。でも一日数時間はやってます。
プレイヤーとして楽しんでいるだけでなく、ゲーム開発に携わる人間として、多くの示唆をGasHeroから得ています。
ゲームデザインが、細部までめちゃくちゃ噛み合っててすごい。
ということで、「ホワイトペーパーを起点に、GasHeroのゲームデザインを読み解く」記事を書きました。
ホワイトペーパーに書いてある内容を超えて、その裏にある意図まで読みたい…という意味をこめて、タイトルは”超読解”としてます。
そういう深読みや分析を楽しめる方に向けての記事です。
GasHeroやSTEPNをプレイしてる方は、特に面白く読めるかも。
「それな!」とか「それは違くない?」と思いながら読んでもらえれば幸い。
■WP(English):原文
・https://whitepaper.gashero.com/
■WP(日本語):有志翻訳
・Gas Hero White-paper
・https://kudasai-guild.gitbook.io/gas-hero-howaitopp/shi-jie
OVERVIEW(概要)は飛ばして、WORLDから読み解いていきます。
1) WORLD
1-1) STRUCTUER
GasHeroのコミュニティ構造は、何が革新的?
- GasHeroは、ゲーム内コミュニティを5つにレイヤー分けしている。
- CLAN:MAX 9人
- GUILD:MAX 81人
- DISTRICT:MAX 727人
- CITY:数千人
- WORLD:プレイヤー全員
画像引用:https://x.com/shenfeng842/status/1704725468535271520?s=20
- ↑ゲーム開始時、プレイヤーは自分の所属するCITY、DISTRICT、GUILD、CLANを選ぶことになる。
- そうやってサイズ感の違う複数のコミュニティに強制的に所属させることで、どのプレイヤーであっても自分にとって最適なコミュニティサイズを見つけてプレイできる状態を狙っている。
- 「どれくらいのサイズのコミュニティを意識すると、やる気がでるか」は人によってことなる
- 現実世界で例えるならば……
- ex1) 「家族を守る」ということを重要視して生きている人は、”家族”という最小単位のコミュニティに意識が向いている
- ex2) 「日本を変える」 を目標に生きている人は、”国家”という大きな単位のコミュニティに意識が向いている。
- WORLD~CLANという各レイヤーは、ただサイズが違うだけでなく、それぞれの上限人数に応じて適切な役割を担わせている。
- 「9人で構成されるコミュニティ(クラン)はプレイヤーにとって〇〇な存在であるべき。そして81人で構成されるコミュニティ(ギルド)はプレイヤーに△△を提供する存在。287人で構成されるコミュニティは…」といったように、運営は各レイヤーの役割をちゃんと定義づけている…という意味。
- そして、その役割を各レイヤーがちゃんと果たせるように、様々な機能を実装している。この例が、後述するクラアド・ギルアドやオークション。
- ロビン・ダンバー(ダンバー数 の発見で有名な人類学者)的な、こういう ↓ コミュニティ観をゲームシステムにうまくとりこんでる。
実際、いまのところコミュニティどう機能してる?
- 1月現在はゲームが始まったばかりで、みなが手探りの状態であり、ゆえに多くのコミュニティはまだ未成熟な状態。
- リアル人類史で言えば、効率的な狩猟のため、寄り集まることを始めた段階
- まずは各コミュニティ内でのルールや暗黙の了解といった ”決め事” が増えていくことによって、コミュニティは成熟していく
- GasHeroは、こうしたコミュニティ内の決め事を制定し、それを厳格に運用ができる集団ほど大きな利益を得られるゲーム設計が多々見受けられる。
- =ゲーム内社会の成熟を、ゲーム側からも積極的にサポートしている。
1-2) SETTLEMENT
BCVのメリット・デメリット
- GasHeroをプレイするためには、「BCV」というアセットが必要。
- このアセットは、ゲームを開始するためのチケットでしかなく、消費型アイテムである。
- BCVという”入場券”の存在は、以下のような運営上のメリットを持つ。
- ①複垢の抑制
- 複垢作成ハックを、アカウント作成にコストがかかる仕組みにすることで抑え込んでいる。
- 複垢を建前的に「禁止」することは実質ほとんど意味がない。そうした拘束力のない禁止を安易に掲げることは、それを律儀に守る”良いユーザー”に損をさせ、不満が噴出する元になりえるので避けるべき。
- …という結論に、STEPNの運営経験からFSL(STEPN、GasHeroの運営会社)はたどりついたのでは。
- ②サンクコストとなり、ユーザー離脱を抑制
- 「ゲームを開始する権利」に対して多額の金銭を投じたユーザーは、撤退をしづらくなる。
- 多くのブロックチェーンゲームでは、ゲーム開始のために購入したNFTやトークンはいつでも売ることができる。そのため、初期投資がサンクコストとしては機能しにくい。
- ③新規プレイヤーの流入数コントロール
- BCVの数(=新規プレイヤー受け入れ数)は、運営側で任意にコントロールが可能。
- BCV作成素材は、クエストでランダムドロップされる。この確率は非公開であり、運営側が人を入れたいタイミングで蛇口を緩めるはず。
- STEPNにおけるアクティベーションコードを、ゲームエコノミクス内に取り込んだものとも言える
- GasHeroはSTEPNよりも、運営視点でユーザー数を急激に増やさないことが重要なゲームであるため、より強い流入数コントロールをすることは理にかなっている
- Why?:ゲームシステムが複雑であり、新規に対して既存がオンボーディング(丁寧な受け入れ)をしてあげる必要性が高い
- Why?:各コミュニティの受け入れ体制が整っていない状態での新規流入は、誰にとってもネガティブ
- もちろんBCVの存在はメリットだけではなく、大きなデメリットがある。それは、新規流入者にとっての大きなハードルになること。
- 初期参入額が高くなる上に、「ダメそうだったらすぐ撤退」の戦略が取りづらいことは、かなりの心理的障壁になるはず。
- 初期参入者たちにそのハードルを超えてもらえるだけの実績と信頼がある…とFSLが自認しているからこそ取れるシステムともいえる
- ブロックチェーンゲームに新規参入する会社では、このBCVシステムを模倣することは相当難しいだろう
1-3) CITIES
地図データ引用:https://stepn-market.guide/gashero#gh-cities
- ゲーム内の都市(コミュニティの最大単位である CITY)は、現在は15個のみ解禁されている。
- 解禁されている都市が地図中の赤ピン、未解禁の都市が青ピン
- 各CITYは、最初は2つのDISTRICTをもつ。
- その都市に所属する人数が増えてきたら、DISTRICTの数を増やすことで、都市の収容人数を増やせる。
- プレイヤー数の増加に応じて、CITYは徐々に解放されていく。
- CITYはコミュニティの最大単位であり、収容人数上限を増やせる唯一のレイヤーである。
- つまり、プレイヤー層の拡大に対して、二軸で対応する構造になっている。
- A)プレイヤー数の増加 ⇒ 都市の収容人数増加で対応
- B)新規クラスタの参加、大手コミュニティ数の増加 ⇒ 都市数増加で対応
- レイヤーの高いコミュニティほど、その収容人数は柔軟に変化させられる。そのため、CITYのみ収容人数を可変にしているのだと思われる。
- たとえば、“家族”が収容できる人数は時代・文化が違ってもだいたい一定だが、”国家”が収容できる人数はかなり幅を持たせられる。
- クランやギルドといった小さな単位がゲーム内で担っている役割は、人数が多くなりすぎると機能しない…といった側面もあるだろう
- 架空の都市ではなく現実の都市をゲーム内で使用していることは、以下の効果も狙っているはず。
- 新規ユーザーがゲーム内に入ってくる際に、どこに入植するかを決定するための判断材料になる
- 特にその土地に思い入れがあるユーザーに対して、帰属意識の向上
- 各国にマーケティングを行う際に、その国の都市をゲーム内で解禁する…といった小技を使える
1-4) BUILDING
ホーム画面から伝わってくる思想
- ↑ ゲームのホーム画面
- 中央に表示されている5つの建物が、アドベンチャー(いわゆるクエスト)の行き先。
- たとえば AIファクトリーに行ってエナジーを消費すると、ヒーローポーションがもらえる…という感じで、獲得アイテム種別と建物が1:1対応している。
- ユーザーが頻繁に行うアクションは、ほぼ全てこのホーム画面からアクセスできる。
- 左下に停まっている9つのトラックが、自分のクランにいるメンバー。
- タップするとそのメンバーの情報が見れる。
- ホーム画面は、同時に”クラン画面”でもある。
- 自分が所属しているクランやそのメンバーを、最もユーザーが目にするホーム画面で意識させる設計になっている。
- 左下のマップボタンから、より深い階層に進むことで、ギルド画面やシティ画面も閲覧可能。
- 「ほとんどのプレイヤーにとって、もっとも意識すべきコミュニティ単位は クラン」という思想が伝わるUI。
クラアド・ギルアドが、コミュニティに果たす役割
- クランアドベンチャー・ギルドアドベンチャーは、ClanまたはGuild単位で挑むレイドバトルのようなもの。
- 多くのプレイヤーにとって、ゲーム内で最もコミュニティ所属の恩恵を感じやすい瞬間は、クラアドやギルアドの報酬をもらった時 だろう
- クラアド・ギルアドは 自分の所属する共同体に、強くてアクティブな人が多いほど、たくさんの報酬がもらえる …という仕組み。
- この報酬を最大化するために、各プレイヤーは「できれば強い人たちが集まっているところに行きたい!」と思い、そして「強い共同体に受け入れてもらうために、自分自身のアセットを強くしないといけない…!」と感じる。
- クラアド・ギルアドの報酬は概ね以下のように決定・分配される。
- 報酬決定ロジック
- ①まず、全員で力をあわせてクリアを目指す。クリアできた度合い(%)に応じて、報酬の総量が決定される。
- 下図では、113%の達成率でクリアし、981個のアイテムを得ている。
- ②各人の貢献総量が順位化され、順位に応じて報酬を得る
- 下図では、私(Kuro)は貢献順位が 5位/9位中 だったので、98個のアイテムを得ている。
- こうしたギルアド・クラアドの仕様は、プレイヤーの以下のような感情を引き起こす。
- 他のメンバーを強くしてあげたい、強くなって欲しい
- クラン・ギルドメンバーに再投資のプレッシャーをかけることが、自分の報酬を増やすことにつながっている。
- 他者の戦力増強を助けることが、自分の報酬量を増やすことにつながっている。
- 少しでも上の順位を目指したい
- 多くの報酬を得るため
- 少人数のランキングなので、「どのくらい投資をすれば順位が上がるか」がわかりやすく、上の順位を狙う意識が芽生えやすい。
- 顔の見える(コミュニケーションをする)メンバー同士なので、以下のような状況が発生しやすいため
- 低い順位であれば、自分が足を引っ張っていることが順位ではっきりと示されるので、申し訳なく思う
- 高い順位であれば、自分を知るメンバーから称賛・感謝されて嬉しい
- クラアド・ギルアドのバトルの様子は、リアルタイムでのみ観戦することができる。
- メンバーで集まって実況しながら見る ことを想定していると思われる。こうしたライブ体験を提供することは、コミュニティの一体感醸成に有用。
- 「今日21時からクラバト行きます!みんなでみましょう~」的な体験。
- また、この仕様も、メンバーからの目線を強烈に意識させることに一役買っている。
- 誰が活躍しているか(あるいはしていないか)は、皆で実況する中で触れざるを得ないので。
- 他の人のバトルを観戦することで、強いキャラ・構成などが理解でき、購買欲も高まる。
オークションが、コミュニティに果たす役割
- クラアド・ギルアドに次いで、多くのユーザーがゲーム内でコミュニティの存在を意識する仕組みがオークションである。
- オークションでは、自分の所属している共同体(Guild、District)のメンバー同士で、出品されている品を取り合うことになる。
- 商品を出品するのは運営。
- 出品開始額は、” 前回の、世界中のオークションでの落札平均額 * 0.8 “ らしい。
- オークションに出品される商品の量や質は、各共同体(Guild、District)の強さや取引実績などによって決定される。
- 強い共同体ほど、全体としてオークションで得ができる
- オークションは、
- クラアド・ギルアドと同様に「周りに強くなってもらうこと」や「強い共同体に入ること」のインセンティブとして機能する
- ギルドや地区を「信頼感のある人だけで固めること」や「協定破りをするような人がいない、結束力ある共同体にすること」のインセンティブとして機能する
- たとえば、他人の入札に上乗せ入札をしない…という協定を守ることのできるメンバーだけにすれば、全員がトクできる
- こうしたインセンティブがあることで、知り合いをゲームに誘って一緒にプレイするきっかけになりうる。
これらのシステムがプレイヤーにもたらす作用
- 「クラアド・ギルアド」と「オークション」は、2つとも、以下のような状況をプレイヤーに発生させることを狙ったシステムともいえる。
- ”コミュニティのしがらみ”に縛られる代わりに、”金銭的利益” や ”人とプレイする楽しさ”を得ることができるようにしている
- コミュニティのしがらみ
- 親しい人たちに迷惑をかけたくない…という気持ちの発生
- 周りが強くなるペースに合わせて自分も再投資して強くならなければ…と思う
- 自分のアセットを売り払って半撤退、といったこともかなりやりづらくなる。
- 周りになにかをしてもらったから、それを返さなければ…という義務感
- 集団の中で評価され続けたい(≒自分がコミュニティから排除されるリスクを低く保ちたい)という欲求が生まれる
- etc…
- 金銭的利益
- クラアド・ギルアドの莫大な報酬
- オークションで安くアイテムを買える
- これらのシステムに参加することで得られる、今後の相場予測情報
- どのキャラが強いか、どのアイテムがどういう人に需要があるかなど
- etc..
- 人とプレイする楽しさ
- ゲームプレイについて、気軽に共有して楽しめる友人が作れる
- 顔の見える相手と競い合える
- 大人数でなにかを達成する一体感
- etc..
- しがらみも利益も楽しさも、”強い共同体”に入ったときほど大きくなるようにデザインされている。
- また、この2つのシステムに一貫している思想は、 ”自分の利益” ≒ “共同体の利益” という状況を作ることである。
- 「自分の利益を追及することが共同体の利益にもつながる」「共同体の利益を追及することが自分の利益につながる」とユーザーが考えやすくするための装置として機能。
- =“自分の利益”と”共同体の利益” を天秤にかけてどちらかを選ばせる…という事態ができるだけ起こらないようにデザインされている。
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なんとここまでで、GasHeroのホワイトペーパーの8つの項目のうち「WORLD」しか終わってません。
他の7つの項目についても無限に語りたいことは残っていますが、流石に長くなりすぎたので一旦ここで筆を置くことにします。
この記事の反響があれば、続きも投稿していきます。
では。
まだプレイしてない方は、GasHeroぜひやってみてくださいね。